家族性脳動脈瘤の遺伝子探索

2001年~2005

 

京都大学大学院医学研究科脳統御医科学系専攻 脳病態生理学講座 博士課程に在籍させて頂いた時に与えて頂いた研究テーマ

 

大学院入学と同時に小泉昭夫教授の研究室に行き、この研究に参加させて頂いた。

小泉昭夫教授は、研究についての心構え、考え方、手技、論文の書き方に至るまで、一から丁寧に御指導頂いた大恩師です。

研究の面白さに気づかせて頂き、前向きに努力を続ける生き方についても教えて頂きました。

 

Project Leader; 

京都大学大学院医学研究科社会健康医学系専攻 環境衛生学分野

小泉昭夫教授

研究室ホームページ:http://hes.pbh.med.kyoto-u.ac.jp/

 

 

脳動脈瘤の家系図
脳動脈瘤の家系図

 

一般中高年者では検査すれば約5%に脳動脈瘤が発見されると言われる病気に対する関連遺伝子を見つける方法として、罹患同胞対を数多く集めて行う連鎖解析の手法が広く導入されつつある時代であり、私達が研究をスタートするよりも前に東京大学を中心とする研究グループがこの手法を用いて脳動脈瘤遺伝子解析をすでに始めていた。

 

小泉教授は、『病気の原因に強く関係している遺伝子を見つけるには、その病気が家系内に何人もいる濃厚な家系に協力してもらって遺伝子解析を行うことが重 要である。』との信念を持って研究をしておられ、発症者が少なくとも家系内に3人以上確認された脳動脈瘤家系を探すところから研究がスタートした。

 

主治医まかせではなく、全国の病院をめぐって、協力してくれる家系の方々に直接会いに行って研究の主旨を説明して、協力して頂く大変な仕事であったが、小泉教授と研究室の仲間と多くの地を旅することができた。

 

この研究で、濃厚な脳動脈瘤家系では、17番染色体のセントロメア(短腕と長腕の間)の近くに最も強い連鎖(脳動脈瘤発症者に共通する遺伝子座)の領域を発見することができた。

さらに、この領域に存在する遺伝子を片っ端から調べていったところ、TNFRSF13B (tumor necrosis factor receptor superfamily, member 13B)と呼ばれる免疫に関係していると発表されていた遺伝子で、複数の家系において機能に障害をもたらす遺伝子変異を発見することができた。

 

現在も 脳動脈瘤関連遺伝子の研究は世界中で競うように行われており、新たな遺伝子座、疾患関連遺伝子が次々と報告されている。

 

2008年にNature Geneticsでヨーロッパと日本の脳動脈瘤発症者に共通した一塩基多型(SNP)について報告され、小泉研究室でもこれを検証したところ、9番染色体のSNPに明確な差があることを確認し、その領域に存在するCDKN2BASと呼ばれる遺伝子に関連が深いことを報告した。

 

フランスへ短期留学

ノートルダム大聖堂から
ノートルダム大聖堂から

200410月から2カ月間と短期であったが、小泉教授と脳神経外科の橋本信夫教授の御配慮でフランスへ留学させて頂いた。

準備期間も少なく、フランス語は全く話せないままであった。


当時、京都大学大学院 医学研究科 社会健康医学系 ゲノム情報疫学 教授に就任された松田 文彦先生が兼任しておられたフランス国立ジェノタイピングセンター (Centre Natinal de Genotypage, Director; Gregory Mark Lathrop博士)に、京都大学との脳動脈瘤遺伝子解析研究の共同研究という形での留学であった。


フランスの威信をかけた国立研究所で、高価な最先端の機器を使った高速遺伝子解析の研究を体験することができた。短期間でもあり、遺伝子の発見や論文作成などの華々しい実績を残すことはできなかったが、パリから朝5:30の始発電車に乗って毎日研究所に通った日々は忘れられない。

 

また、これほど長期間、海外に滞在する機会を得たことは後にも先にもなく、今でも自分の心の中でとても大切な場所となっている。

 

将来、もしチャンスがあれば、パリに住んでみたい。